AIが磨くポルシェのEVインバーター:ZVSとARCPで効率と小型化を両立
ポルシェ・エンジニアリングがAI制御でEVインバーターを高度化。ZVSとARCPによりスイッチング損失を70~95%低減し、航続距離向上・発熱抑制・20~50%の小型化を実現へ。既存車両にも適用可能なソフトウェア提供。RNNと強化学習で最適タイミングを予測し、最小限のハード変更で効率化とデバイス寿命延長に貢献。
ポルシェ・エンジニアリングが電動車の効率向上に向けてAIを導入する。まず着目したのは、動力系の中でも重要でありながら過小評価されがちなインバーターだ。電動駆動で生じるエネルギー損失の大きな部分はパワートランジスタのスイッチング時に発生し、航続距離や熱負荷、さらには部品サイズにまで影響する。ここを磨き込む判断は理にかなっている。
新しいアプローチの柱となるのが、ソフトスイッチングの考え方だ。電圧と電流が遷移中に重なってしまう従来のハードスイッチングとは異なり、オン/オフのタイミングを緻密に制御して両者の積を最小化。実際には、電圧や電流がゼロ近傍の瞬間を狙って切り替える。
同社が選んだのは、誘導性負荷(電動モーター)の特性に合うゼロ電圧スイッチング(Zero Voltage Switching, ZVS)。高いスイッチング周波数でも効率的に動作するシリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)の最新パワートランジスタとも相性が良い。デバイスの潮流と手法の選択がきれいに噛み合っている。
このコンセプトの中核となるのは、ARCP(Auxiliary Resonant Commutated Pole)インバータートポロジーだ。電力変換の世界では古くから知られる方式だが、駆動用インバーターでの活用は、急変する運転条件下での制御の難しさがネックだった。ここでAIが真価を発揮する。
事前学習させたAIアルゴリズムが、負荷やトルク、温度といった数十の車両パラメーターをリアルタイムで処理し、パワートランジスタの最適なスイッチング時点を数分の1秒単位で算出する。予測精度に優れる再帰型ニューラルネットワーク(RNN)と、厳しいリアルタイム性に強みを持つ強化学習の双方を評価中だという。
シミュレーションでは、トランジスタのスイッチング損失を70~95%も低減できる結果が示されている。走行条件によっては航続距離の伸びとして体感でき、同時にインバーター内の発熱も抑えられる。熱負荷が下がれば冷却系は小型化でき、インバーター自体の容積も20~50%縮小が見込める。スイッチングが穏やかになることでトランジスタへの負担も軽くなり、寿命延長の可能性もある。数字が語るメリットは大きい。
AIベースの制御アルゴリズムはすでに開発の最終段階に近づいている。完成後はソフトウェア主体のソリューションとして提供される計画で、ソフトウェアライブラリの形で既存の制御ユニットに組み込み可能。必要なハード変更は最小限に抑えられ、既存モデルの改良から新規のEVプラットフォームまで幅広く適用できる見込みだ。実装のハードルが高かった領域に、現実解が見え始めた印象を受ける。
Mark Havelin
2026, 1月 09 05:22