ロールス・ロイス「スペクター」需要鈍化とビスポーク強化—電動化と伝統のバランス

ロールス・ロイスEV「スペクター」需要鈍化:超富裕層市場でビスポーク拡大、電動化の行方と最新動向を解説
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ロールス・ロイス初の完全電動モデル「スペクター」は超富裕層で需要が鈍化。一方でビスポークとV12が堅調。2030年の完全電動化方針を掲げつつ、顧客嗜好に沿う柔軟な戦略と市場動向を詳しく解説。納車は前年同期比45%減、比率も2割未満に低下。グッドウッド拠点拡張や「プライベート・オフィス」で体験価値を強化する背景も紹介。

ロールス・ロイス・モーター・カーズの初の完全電動モデル「スペクター」への熱は、超富裕層のあいだで目に見えて落ち着いてきた。市場投入直後は華々しい滑り出しで、初の通年でも好評を博したが、いまはクーペの引き合いが鈍化。一方で、ブランド全体は従来型モデルとビスポーク(注文製作)の伸びに支えられ、事業自体は着実に拡大している。

ブルームバーグの取材で、CEOのクリス・ブラウンリッジ氏は、発売時の熱気は薄れていると率直に認めた。BMWグループのデータによれば、2025年の第1〜第3四半期におけるスペクターの納車台数は前年同期比で45%減。ロールス・ロイス全体の販売に占める比率も2割未満に下がった。一方で、ブランド全体の納車は3.3%増を記録しており、需要の重心が別の領域へ移っていることがうかがえる。

それでも電動化を諦めたわけではない。ロールス・ロイスは2030年以降にラインナップを完全電動へ移行する方針を掲げ続け、今後も電動モデルを増やす意向をあらためて示している。ただしブラウンリッジ氏は、最優先はあくまで顧客の嗜好だと強調。V12への需要が根強い限りは生産を続ける考えで、電動パワートレーンはブランドを規定する唯一の要素ではなく、有力な選択肢の一つに位置づけるという。

スペクターの関心が落ち着くなか、同社は収益の中核としてビスポークに一段と重心を置く。過去10年で平均販売価格は約30万ポンドから50万ポンド超へ上昇。2024年だけでも100万ポンドを超える価格で納車された車両が20台以上にのぼり、鮮やかな外装色や緻密な内装、希少素材、スターライト・ヘッドライナーといった象徴的な仕立てへの嗜好が強まっている。新しさよりも「自分だけの一台」を求める空気感が、明確に数字へ反映されている印象だ。

この路線は顧客体験への投資によって支えられている。世界各地で、専任スタッフと数カ月をかけて一台を設計できる専用空間「プライベート・オフィス」を拡充。並行して、英グッドウッドの拠点を約3億ポンドかけて拡張しており、狙いは生産台数の積み増しではなく、極めて個性的な仕様を確実に形にする能力の強化に置かれている。

スペクターの減速は、自動車業界の地合いの変化とも重なる。欧州では将来的な内燃機関の禁止をめぐる言い回しがトーンダウンし、プレミアム市場のEV需要も当初の予測ほど伸びていない。こうした背景を踏まえれば、ロールス・ロイスが急速かつ量を追う電動化よりも、新技術と伝統、そして排他的な希少性のバランスを優先しているのは自然な帰結に見える。超富裕層にとっての価値は、加速性能の数値よりも、体験の濃度と物語性に宿ることが多いからだ。

そもそも同社は「誰にでも届くクルマ」を目指していないことを明確にしてきたブランドだ。その意味でいまのアプローチは一貫している。電動の未来は視界に入っているものの、そこへ向かう歩み方はますます柔軟になり、世界の超富裕層の嗜好が道筋を形作っていく。

Allen Garwin

2026, 1月 04 06:19